さて、本日は度々
マスコミ業界が主張する「国民の知る権利」というフレーズについて書いて行きます。
まずはこちらの記事から
ドローン飛行規制反対で政府に申し入れ 新聞協会
NHK 2019年2月8日
https://web.archive.org/web/20190208093504/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190208/k10011808941000.html
小型無人機=
ドローンの飛行禁止区域に在日アメリカ軍の基地などを加えるため、政府が法整備を目指していることについて、日本
新聞協会は国民の知る権利を侵害するなどとして反対する意見書を取りまとめ、政府に申し入れました。
政府は、小型無人機=
ドローンを使ったテロが懸念されるなどとして、東京オリンピック・パラリンピックの競技会場などに加え、在日アメリカ軍や自衛隊の基地を無断飛行の禁止区域に指定するための法整備を目指しています。
これについて新聞各社やNHKなどでつくる日本
新聞協会は、菅官房長官宛ての意見書を取りまとめ、8日、井口文彦編集委員会代表幹事が、内閣府を訪れ、担当者に手渡しました。
意見書では、「防衛施設周辺上空の飛行禁止措置は、取材活動を大きく制限し、国民の知る権利を著しく侵害するものだ」として法整備に反対するとしています。
そのうえで、法整備を行う場合でも、報道機関は対象外とするとともに飛行禁止区域を必要最小限にすることなどを求めています。
井口代表幹事は、記者団に対し「飛行禁止区域が不適切に拡大し、不当な取り締まりが行われかねない。特に、在日アメリカ軍への取材活動が大きく制約され、当局の発表に関する真偽の検証すらできなくなることから看過できない問題をはらんでいる」と述べました。
この記事では、政府が自衛隊や米軍の基地を
ドローン禁止区域に指定しようとしたところ、
新聞協会が「国民の知る権利を侵害する」として反発したとする記事です。
この件、そもそもなぜ自衛隊や米軍の基地を「
ドローンで」『取材』しないといけないのか、そしてなぜ報道機関だけ例外扱いしないといけないのか、色々と問題だらけですが、ここではその辺りは扱わず、彼らの言うところの「国民の知る権利」という主張そのものにスポットを当ててみます。
この
マスコミ業界の言うところの「国民の知る権利」なのですが、上記事例でもわかるように、そもそも「なぜその取材が必要なのか」「それがなぜ公的な知る権利になるのか」が説明されないまま、言葉だけが先行している場合が殆どです。
もう少し具体的に書くと、「誰のための知る権利なのか」が全くもって意味不明で、単に特定の集団、場合によっては単に「政治的スタンス」や「スクープ」のために
マスコミが望んでいるだけの情報をそう言っているだけである場合が殆どです。
例えば以下の事例がわかりやすいですが
「強制徴用判決、ICJ・仲裁に進んでも韓国が勝つ」(1) (2)
2019年02月11日07時19分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
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昨年10月末に下された
韓国大法院(最高裁)の強制徴用判決で韓日関係が最悪の状態だ。日本・安倍政府は1965年韓日協定で
韓国が請求権を放棄した以上、強制徴用の賠償はありえないと強弁する。日本側はこれに関連し、先月「政府間協議」を
韓国に要求し、30日間の回答期間が終わる日が今月8日だった。このような動きに対して、
韓国政府は無対応で一貫している。
これによって外交的協議が失敗に終わったことを受け、日本政府は翌月初めごろ、仲裁委員会にこの問題を持ち込む腹積もりだ。韓日協定は紛争が発生した場合、先に協議で解決を模索するものの、それでもうまくいかない場合には当事者国と第三国から1名ずつ任命した3人の「仲裁委員会」を構成して問題を解決するよう規定している。安倍政権は
韓国大法院の判決が国際法を無視したもので、仲裁であっても国際司法裁判所(ICJ)であっても、国際社会では受け入れられないだろうと確信している。
だが、韓国はもちろん、日本の法律家の間でも正反対の意見がある。「日本は絶対に勝てない」という主張だ。このような意見を出している代表的な法律家、
高木健一弁護士(74)と先月31日、ソウル光化門(クァンファムン)のホテルで会った。
--日本は負けると主張する理由は。
「何より日韓協定によって消えたのは『外交的保護権』であり、個人の損害賠償請求権は残っているという事実を日本政府が認めた例があるためだ」
--日本政府がいつ、どのように認めたのか。
「1991年8月の参議院会議で、当時外務省の柳井俊二・条約局長は『日韓協定は両国が国家として持つ外交的保護権を互いに放棄したもので、個人請求権を国内法的に消滅させたわけではない』と答弁した。私も現場にいたが、社会党の清水澄子議員に『日韓協定で個人請求権が消えたことなのか』と尋ねてほしいとメッセージで促してこのような回答を得た」
--日本政府がこのように答えた背景は。
「それ以前に、日系カナダ人が個人請求権関連紛争で日本政府を相手取って訴訟を起こした時、国家間の協定では個人請求権はなくならないという立場を公式に明らかにしたためだ」
資料を探したところ、高木弁護士が言及した日系カナダ人の事件の概要は以下の通りだった。太平洋戦争真っ只中だった1942年、カナダ政府は日系住民2万2000人余りを強制収用所に収容して財産を没収した。敵国出身の彼らが脅威になるという理由からだった。結局、日系カナダ人は戦争が終わって4年が過ぎた1949年にようやく解放される。
彼らは釈放されてから少し後に、奪われた財産を返してほしいとカナダ政府に要求した。だが、サンフランシスコ条約があるため順調にはいかず、日本政府を相手取って訴訟を起こした。日本と連合軍側45カ国と結んだこの条約は、フィリピン・インドネシアを除く多くの連合軍国家と日本の間には戦争に関連した請求権を消滅したと見なすというのが骨子だった。これに伴い、カナダ政府が日本国籍の住民から没収した財産に対しても請求権が行使できなくなった。
このような事態になり、財産を失うことになった日系カナダ住民はサンフランシスコ条約を締結したせいで請求権を行使できなくなったとして、日本政府に対して訴訟を起こした。これに対して日本政府は「条約でなくなったのは外交的保護権であって個人請求権は消滅したわけではない」とし、カナダ政府に対して訴訟を起こすよう明らかにした。韓日協定で個人請求権がなくなったという現在の立場とは正反対の主張をしたのだ。
高木弁護士は強制徴用被害者の請求権が今も有効であることを証明する別の論理も聞かせてくれた。日本が韓国人の個人請求権を認めないために別途法を作ったという。
--韓日協定でも個人請求権が今も有効だとしたら、日本裁判所はこれを認めることができたはずだが。
「そこで作られたのが日本国法律144号だ。日本政府は1965年、日本と日本人に対する韓国人の個人請求権を消滅させるという内容を骨子としたこの法を制定した。今、日本政府が主張しているように、日韓協定で個人請求権がなくなったとすれば何のためにこの法を作っただろうか。これは、協定だけでは個人請求権が消滅していないことを傍証することになる。そのため日本法律144号のような国内法が制定されなかった韓国では個人請求権が今も有効だと見るのが正しい」
最後に、高木弁護士は韓日協定に沿って日本が提供した経済的支援の性格を見るべきだと述べた。これをみると、強制徴用被害者に対する支払責任は韓国政府にあるという主張は話にならないと強調した。
--日本が負ける別の理由もあるのか。
「安倍政府はもちろん、日本の放送番組でも、韓国が5億ドルを受け取った後に自身の判断によってこれを経済建設に使ったから強制徴用被害者に対する支払義務は韓国政府にあるという論理を展開している。事実を知らないからそうなのだ。当時、日本は日韓協定によって、3億ドルに該当する生産物およびサービスを10年間にわたって分割提供した。残りの2億ドル規模の融資も同じだ。現金は全くなかった。その上、どのように使うかは両国政府の代表で構成された合同委員会で決まっていた。韓国政府が思い通りに使う余地がなかったことになる」
--日本政府が提供した生産物とサービスはどのように使われたか。
「日本企業が韓国に生産設備を建てる形式が多かった。当時不振だった鉄鋼会社の新日鉄(新日本製鉄)から全体金額の10%に該当する5000万ドル分の設備を購入した後、これを韓国に提供することも含まれていた。日本にとっては請求権問題を解決しながら経済的利益を上げることができ、韓国に対する経済的支配を継続できる『一石三鳥』だった」
韓国大法院判決が正しいと信じているのは高木弁護士だけではない。昨年の判決以降、これを公開的に支持する日本弁護士は200人余りに達し、今も増えている。
韓国の今後の対応に関連し、高木弁護士は仲裁や国際司法裁判所に事件を持ち込むことを躊躇(ちゅうちょ)するなと忠告する。
--日本政府は仲裁に持ち込み、それでも解決できなければ国際司法裁判所に持ち込もうと考えている。
「日本政府が勝つ可能性はない。したがって韓国政府は日韓協定の規定通り仲裁に行ったほうがいい。国際司法裁判所に進んでも心配することはない。だから韓国政府は堂々と出ていくべきだ。日本政府は強制徴用問題が日韓協定で解決され、韓国が国際法も知らないと言うが、話にならない主張だ」
高木弁護士は韓国の法曹記者協会が与える「今年の法曹人賞」受賞のため訪韓した。東京大学法学部出身の高木弁護士は、1975年以来、44年間にわたって日帝植民地時代に被害を受けた韓国人のために献身的に尽くしてきた。高木弁護士は韓国人と円滑にコミュニケーションをとるために韓国語を学んだ。このためインタビューは韓国語で行われた。
要するにこの記事は、以前ここでも記事にした「
またまた朝日新聞のフェイクニュース」での燻製ニシンの虚偽と呼ばれる詭弁を行っているだけの代物です。
そのうえで、彼の主張には更に矛盾があり、実は韓国大法院の判決と高木弁護士の主張は矛盾しているのです。
なぜなのかは以下を読めば解ります。
強制徴用:新日鉄住金に賠償命令の「記念碑的判決」、国際的に波紋呼ぶ恐れ
朝鮮日報 2018/10/31
https://web.archive.org/web/20181101011705/http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/10/31/2018103100658.html
日帝(日本帝国主義)による強制徴用被害者が日本企業を相手取り起こした損害賠償訴訟は30日、13年8カ月にわたり幾多の波紋を広げた末、原告勝訴で終結した。日帝の不法支配による損害賠償請求権が1965年の韓日請求権協定で消滅していないとする今回の判決による波紋は、日本企業だけでなく、両国の外交・歴史分野にも広がる可能性がある。
大法院(最高裁に相当)の全員合議体(大法廷に相当)は同日、日帝による強制徴用被害者の故ヨ・ウンテクさんら4人が日本の新日鉄住金(当時の日本製鉄)を相手取り起こした損害賠償請求訴訟の再上告審で、原告1人当たり1億ウォン(約1000万円)の賠償を新日鉄住金に命じる判決が確定した。韓国の裁判所が日本企業に植民地統治時代の被害の賠償を命じた判決は、光復(植民地支配からの解放)から73年間で初めてのことだ。
2008年から09年にかけての一審、二審は、既に賠償時効が成立し、同じ事件で訴えを棄却した日本の判決が韓国にも効力を及ぼすとして、原告敗訴の判決を言い渡した。しかし、大法院は12年、「不法な植民地支配による損害賠償請求権は1965年の韓日請求権協定に含まれていない」として、審理を高裁に差し戻した。差し戻し審は大法院の趣旨に沿い、新日鉄住金に被害者に1人当たり1億ウォンの賠償を行うよう命じた。新日鉄住金は判決を不服とし再上告。今年7月に大法官(最高裁判事に相当)が全員参加する全員合議体による審理が始まった。
争点は1965年の韓日請求権協定に強制徴用の被害賠償が含まれるかどうかだった。当時日本が提供した資金で日本側の賠償が終了したのかどうか、請求権確定とは別途、個人の請求権が存在するのかどうかが重要な判断対象だった。
大法院は同日、「強制徴用被害者の慰謝料請求権は請求権協定に含まれていない」とした。大法院は「請求権協定は不法な植民地支配に対する賠償を請求した交渉ではなく、両国間の財政的、民事上の債権、債務関係を解決するためのものだった」とした上で、「日本が交渉過程で植民地支配の不法性を認めないまま、被害賠償を否定したため、慰謝料請求権が協定に含まれているとは見なしにくい」と指摘した。
原告のうち、唯一生存しているイ・チュンシクさん(94)は、直接法廷で判決を見守った。原告4人のうち3人は既に世を去った。イさんは判決後、「裁判には勝ったが、自分一人だけが生き残り、悲しくて涙が出る」と語った。梨花女子大法学専門大学院の崔源穆(チェ・ウォンモク)教授は「人権の最後のとりでとして、司法が記念碑的な判決を下したという評価がある一方、韓日国交正常化の前提となった請求権協定の内容が揺らいだという点で、かなりの国際的な波紋が予想される」と評した。
シン・スジ記者
韓国司法は「2008年から09年にかけての一審、二審は、既に賠償時効が成立し、同じ事件で訴えを棄却した日本の判決が韓国にも効力を及ぼす」として、賠償の時効が成立しているという判決を出しています。
そのうえで、「不法な植民地支配による損害賠償請求権は1965年の韓日請求権協定に含まれていない」としている、つまり未払い賃金などの請求権は時効が成立しているが、日韓併合を違法としたうえでの「慰謝料は生きている」と主張しているわけです。
高木弁護士の言うところの
> 「何より日韓協定によって消えたのは『外交的保護権』であり、個人の損害賠償請求権は残っているという事実を日本政府が認めた例があるためだ」
という主張を韓国司法はしていない事になります。
韓国司法は、未払い賃金などの損害賠償は時効が来て失効しているが、違法な併合に伴う「慰謝料」はまだ請求権があるというものだからです。
争点は「個人の請求権が生きているかどうか」ではなく「日韓併合が違法か合法か」なのです。
ちなみにこちらの韓国側の主張が通るかといえばそれはなく、以前こちらの記事「
徴用工問題と韓国の司法」で書いたように、日韓併合は当時としては合法であるため、韓国司法の判決も成り立ちません。
さて、そのうえで考えてもらいたいのが、朝日や毎日などのメディアはこの高木弁護士の主張をそのまま報じていたわけですが、今回書いたような「矛盾」がある事を伝えるのは「国民の知る権利」に該当するでしょうか。
該当する場合には朝日や毎日など、この件で高木弁護士の主張のみを報じたメディアは「国民の知る権利」を侵害したことになります。
ここで重要となるのは、例えば日本で韓国側の主張を支持する人々は、この情報を「重要ではない」と突っぱねるでしょうし、韓国側の主張を批判する人々は「重要だ」と主張するであろうことです。
そしてそのうえで、「どちらでもないニュートラルな人」はどうでしょう。
重要なのはここで、問題を広く知った上で物事を判断するためには、可能な限り判断材料が多いほうが良いわけですし、本来の「国民の知る権利」の定義とも合致する事から、この情報は報じた方が良い情報となります。
両方知った上で読者に「判断してもらえば良い」からです。
客観的に見て、高木弁護士の主張は韓国大法院の判決と実際に矛盾しているわけですから、判断材料の選択肢としては重要なのです。
(元々ただの詭弁なうえに、判決内容の論点のすり替えが行われていますから)
本来の「国民の知る権利」とはそういう事になるわけですが、実際に
マスコミがこのフレーズを使う場合は、殆どの事例で「自分達のイデオロギーや利益」に合致するかしないかで、国民の知る権利というフレーズを使いわけているのです。
この
徴用工裁判を巡る高木弁護士の主張にしても、高木弁護士の主張は報じても、高木弁護士の主張が韓国大法院の判決と矛盾している事を「伝えない」のは国民の知る権利に反しているにも関わらず、朝日や毎日はその事を伝えません。
そして、「一体何のために自衛隊や米軍基地の敷地に
ドローンを飛ばしたいのか」を具体的に説明しないまま、規制を「国民の知る権利に反している」と批判する、彼らは明らかに「自分達の利益」のための要求に「国民の知る権利」という単語を使っているのです。
本来「国民の知る権利」とは、判断するための材料を得るための言葉であって、持論に都合のいい結論に読者や視聴者を誘導するための言葉ではないはずです。
今回の
新聞協会によるドローンの件や
徴用工裁判関連で高木弁護士の主張”のみ”を伝えたメディアは、やっている事が「民主主義国家における国民の知る権利」ではなく、独裁国家などで政府に都合のいい情報のみをより分けて伝える手法と同じでしかありません。
もう一度書きますが、本来の国民の知る権利とは「広く判断材料となる情報を伝える事」だからです。
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