さて、本日は一連の安倍政権による「
布マスク 配布」に関する報道の中に、非常に分かりやすい「印象操作」と「論点のすり替え」がありましたので、その件について手短に書いていきます。
まずはこちらの
NHK のニュースから
布マスク 妊婦配布分に不良品NHK 2020年04月19日https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200419/1000047678.html
新型コロナウイルスの感染拡大に伴うマスクの品薄対策として、政府が妊婦向けに配布を始めた
布マスク の一部に、汚れがついているなどの不良品が見つかりました。
17日からは、全国すべての世帯を対象にした
布マスク の配布が始まっており、政府は、不良品が届いた場合は、交換するとしています。
妊婦向けの
布マスク の配布は、すべての世帯を対象にした配布に先立って、今月14日から全国の市町村にあわせて50万枚の発送が始まりました。
ところが、厚生労働省によりますと、17日夜までに80の市町村から、届いた
布マスク の一部に「汚れがついている」とか「髪の毛やほこりが入っている」といった報告が相次ぎ、あわせて1900枚余りの不良品が見つかったということです。
布マスクの発注は複数のメーカーに行われており、厚生労働省は、メーカーに対し、再発防止策を求めるとともに、不良品は、新しいものと交換することにしています。
17日からは、全国すべての世帯を対象に、1つの住所につき2枚ずつの配布が始まっており、厚生労働省によりますと、同じ複数のメーカーに発注したものだということですが発送前に目視で確認しているため、不良品が混じっている可能性は低いとしています。
厚生労働省では、不良品が届いた場合は交換するとしています。
この記事では、安倍の政権の配布した布マスクの中に、1900枚余りの不良品が見つかったとしている記事なのですが、この記事を読んで一つの疑問がわきます。
人が作る製品ですから、通常混入物や不良品は多少なりともあるわけですが、一般販売品のマスクにはこうした不良品や混入物がどれだけあるのかという事です。
どうしてかといえば、元々これは一般企業に受注をして配布している通常のラインで生産したマスクでしょうから、もし通常より「製品のクオリティーが低く不良品が多い」のなら問題ですが、通常これくらいの割り合いで不良品や混入物が出るのならば、問題ではないからです。
しかしこの
NHK のニュースには肝心の「その部分の情報」がなく、ただ批判的に扱っており実際にはこのニュースは重要なニュースに見えて何の価値もないニュースです。
単に不良品と異物混入があったという事を強調し、「問題だ」としているわけですから、典型的な印象操作記事です。
NHK ならば、マスクを製造している会社に取材をし、通常どれくらい不良品や異物混入があるのかを調べるくらいはできなければおかしいからです。
次に政府の布マスク配布に関連して典型的な詭弁論法である「ストローマン※」が行われた事例を紹介します。
※ストローマン 相手の主張を持論に都合の良いように歪め、その歪められた主張に反論することで相手を論破したかのように見せかける手法。
“布マスク批判”を指摘の朝日記者に首相が反撃 「御社も3300円で販売」 毎日新聞 2020年4月17日https://mainichi.jp/articles/20200417/k00/00m/040/325000c
安倍晋三首相が17日の記者会見で、
朝日新聞 の記者から「布マスクの全住所配布で批判を浴びている」と指摘された際、「御社のネット(通販)でも布マスクを(2枚)3300円で販売しておられたと承知している」と“反撃”する一幕があった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が17日に配布を始めた布マスクは「アベノマスク」と皮肉られ、「サイズが小さい」などの不評が多い。
首相は布マスク配布について「マスクが手に入らずに困っている方々がたくさんいるという認識のもと、配布することにした。洗えば何回も使え、マスク需要の抑制にもつながっていく」と説明。さらに「シンガポールでも全国民に布マスクの配布を行い、パリ市でもそういう決定がなされたと聞いている」と配布の妥当性を強調した。
さらに
朝日新聞 の質問に対して「御社のネットでも布マスクを3300円で販売しておられたと承知している。つまり、そのような需要も十分にある中で2枚の配布をさせていただいた」と皮肉った。
朝日新聞 社が運営する通販サイト「
朝日新聞 SHOP」は17日現在で「物流に支障が出る恐れがある」として受注停止となっている。【秋山信一】
アベノマスク批判で首相が皮肉った「朝日新聞 の布マスク(3300円)」、大阪「泉大津市マスクプロジェクト」で由緒ある繊維会社が手作りしたものでした BUZZAP 2020年4月18日https://buzzap.jp/news/20200418-asahi-mask-3300yen/ 「アベノマスク」を批判された首相が皮肉ってみせたのは、「日本のものづくり」そのものでした。詳細は以下から。
◆安倍首相が「
朝日新聞 社が販売した3300円の布マスク」をあげつらう
まず見てもらいたいのが
毎日新聞 社の報道。緊急事態宣言を全国に拡大したことについて、4月17日に行われた安倍首相の記者会見での一幕を取り上げた、4/18 10:00現在アクセスランキング1位の記事です。
朝日新聞社が運営する通販サイト「朝日新聞SHOP」で布マスク2枚組が3300円で販売されていたことを首相があげつらっています。
こちらが「朝日新聞SHOP」で販売されていたマスク。「洗える立体ガーゼマスク2枚セット」という商品名で、鼻からあごまですっぽりと覆えるようになっています。この時点で「アベノマスク」とは全く品質が異なるように見えますが……
◆繊維のまちの底力を見せる「泉大津市マスクプロジェクト」で作られたものでした
続いて見てもらいたいのが大阪府泉大津市が主導した「泉大津マスクプロジェクト」の概要。国産毛布の9割を生産する「繊維のまちだからこそできること」として、地元メーカー6社が長年培った技術を駆使して再利用できる布マスクを販売するという内容です。
大津商工会議所の公式ページでは、朝日新聞SHOPで販売されていたものと同じ布マスクが掲載されていました。ガーゼ4層の立体構造を採用した高品質な手作りマスクです。
販売元の大津毛織は100年以上の歴史を誇る老舗メーカー。公式ページでは自社製マスクが朝日新聞に取り上げられたことを報告していますが、「6社で400枚」という小ロット生産のため、どうしても値段を下げられない事情があることが分かります。
つまり安倍首相があげつらったのは「日本の老舗繊維メーカーが自治体の呼びかけで手がけた、手作りの高品質立体構造布マスク」であり、日本のものづくりそのものを皮肉ってみせたのと変わらないわけです。
地元商店や商工会議所での販売にとどまるなど、販路が非常に限られている泉大津市マスクプロジェクトの製品たち。自社通販サイトを通じて日本全国への販路を提供した朝日新聞社が皮肉られるのは、理不尽と言わざるを得ません。
◆マスク報道に歓喜する首相応援団たちの様子をご覧ください
前述の
毎日新聞 社の報道は、政権に批判的な朝日新聞を攻撃したい「首相応援団」とでも呼ぶべき人々に大ヒット中。上記の事実を踏まえた上で、国会議員などの発言を見てみましょう。
そして最もえげつないのがデイリー新潮の『【コロナ禍】「朝日新聞」通販ショップがひどい 2枚で3300円の布マスク』と題した記事。
上記のような経緯があることには触れず「混乱に乗じてマスクで商売するとは火事場ドロの所業。まさに“貧すれば鈍する”で、言論機関としては情けない」という言葉を紹介するなど、ぼったくりであるかのように徹底的に叩いています。
こちらの2つの記事では、布マスク配布を政府が決定した件に関して批判された首相が、朝日新聞に対して「朝日も布マスクを売っている」と発言した件に関して批判的に扱っている記事で、これ以外にもいくつかのメディアで見られる論調です。
これの何がストローマンなのかといえば、そもそも首相が朝日の布マスク販売を皮肉ったのは、元々朝日が「布マスクは感染予防に効果がない」とフェイクニュースを報じていたからであって、値段の件で皮肉を言ったわけではない事です。
朝日新聞の「WHOは『布マスクどんな状況でも勧めない』」記事は誤解生むのでは? 案内は医療従事者向け 篠原修司 | ITジャーナリスト 2020/4/3https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20200403-00171169
朝日新聞が4月2日に公開した「布マスクは有効? WHOは「どんな状況でも勧めない」」との記事が物議をかもしています。 具体的にはタイトルでは「どんな状況でも勧めない」とあるのに対し、記事末では専門家が「他人にうつさないという目的を考えれば、『つけない』という選択肢はない」と話しておわっているためです。 おそらく記事を書いた人と見出しをつけた人が別々のためこのようなタイトルになっているのだと思われますが、そもそもの話として見出しになっているWHOの案内は一般人に向けたものではありません。 WHOの案内は専門家や医療従事者向け WHOが「布マスクはどんな状況でも勧めない」と案内しているのは、以下のページです。 Cloth (e.g. cotton or gauze) masks are not recommended under any circumstances. クロス(例えば綿やガーゼ)マスクはどんな状況でもお勧めしません。 出典:Advice on the use of masks in the community, during home care and in healthcare settings in the context of the novel coronavirus (COVID-19) outbreak ただ、概要に書いてあるようにこの案内は「公衆衛生および感染予防および管理(IPC)の専門家、医療管理者、医療従事者、および地域の医療従事者を対象」としています。 つまり私たちのような一般人向けのものではありません。これをもって「布マスクはどんな状況でも勧めない」と一般論のように取り上げるのは不適切ではないでしょうか。 布マスクの感染率が高い論文は医療用マスクとの比較 この「布マスクは効果がない」論を補強するものとして、ネット上では医療用マスクと布マスクの効果を比較した医学論文がよく取り上げられています。 この論文はベトナムの病院において、医療従事者を勤務中はつねに医療用マスクをつけるグループ・同布マスクのグループ・マスクのつけ外し自由の3つのグループにわけ、呼吸器疾患・インフルエンザ・ウイルス性呼吸器感染症にどれだけ感染したかを調べたものです。 その結果、つねに布マスクをつけていたグループの感染率が有意に高いことがわかったとまとめられています。 また、マスクのつけ外し自由のグループ内で医療用マスクのみをつける人、布マスクのみをつける人にわけて比較したところ、やはり布マスクのみをつけるグループの感染率が高かったとのことです。 この結果をもって「布マスクは効果がない」とされているのですが、この論文は医療従事者における医療用マスクと布マスクの効果を調べたものであって、布マスクとマスクをまったくつけない人を調べたものではありません。 ちなみにマスクのつけ外し自由のグループでは、そもそもマスクの着用率が非常に高かったとのことです。 WHOタイ「具合が悪い場合は、布か紙のマスクを着用してください」 このほか「布マスクはどんな状況でも勧めない」の反論として、WHOタイが2020年3月26日に発表したレポートもよく引き合いに出されています。 WHOタイのレポートでは「公衆への勧告と助言」として「具合が悪い場合は、布か紙のマスクを着用してください」と案内されています。 If unwell, wear a cloth or paper mask. Do not use N95 respirators as supplies are limited and they are critically needed for healthcare workers. 具合が悪い場合は、布か紙のマスクを着用してください。N95レスピレーターは、供給が限られており、医療従事者にとって非常に必要であるため、使用しないでください。 出典:Coronavirus disease 2019 (COVID-19)WHO Thailand Situation Report -26 March2020 他人にうつさないために、布マスクをつけましょう さまざまな情報が流れており混乱しそうですが、簡単にまとめるとこうです。 WHOが布マスクを勧めないのは医療従事者 医療用マスクと比較して布マスクの感染リスクは高い 布マスクはきちんと洗浄・乾燥しないと汚染される 最近のWHOレポートでは具合が悪い人に布・紙マスクを勧めている 布マスクは手についたウイルスが口や鼻に触れるのを防げる 布マスクは他人にうつさない効果を期待できる というわけで布マスクの効果は医療用マスクと比較すると低くなりますが、他人にうつさないためにも布マスクをつけましょう! 4月3日12時16分追記 布マスクの効果について本文に書いていないとの指摘があったため、朝日新聞の記事から紹介しておきます(簡略化された内容は上段で紹介した記事にも掲載されています)。 大西さんによると、マスクには三つの役割があります。 1.ウイルスがフィルター部を通過しない。 2.手についたウイルスが口や鼻に接触するのを防ぐ。 3.顔に密着させ、マスクの間からウイルスが侵入するのを防ぐ。 「布マスクは、2.については効果がありますが、1.については全く効果がありません」と大西さん。コロナウイルスの直径は0.1マイクロメートル。布マスクを容易に通過してしまいます。 (中略) 「つけない」という選択肢はない では、布マスクにはまったく効果がないのでしょうか。大西さんは「他人にうつさないという目的を考えれば、『つけない』という選択肢はない」と言います。 たとえばせきやくしゃみをした瞬間、ウイルスの何割かはマスクの外に出ますが、大きな飛沫をせきとめてくれる可能性があります。つまり、自分の感染予防ではなく、他人への感染予防につながるアイテムだ、という意味です。また、保湿効果によりマスクに覆われた部分をウイルスの増殖しにくい環境にする、のどの保湿によりウイルスの侵入を防ぐ、などの効果が期待できるそうです。 出典:布マスク、うちの子つけても安心? 政府は勧めるけれど:朝日新聞デジタル このほか朝日新聞は布マスクの作り方も案内しています。 なお、この記事の本意は「布マスクをつけましょう(布マスク効果なしの記事に誘導されて感染者が布マスクなしで出歩くのは勘弁して欲しい)」であり、安倍政権による布マスク2枚配布の政策を擁護するものではありません。 布マスク配布発表時の筆者の反応は以下です。 ようは「マスクじゃなくてお金配れ」と批判しています。こちらからは以上です。
こちらの記事を読んでもらうとわかりますが、WHOは感染リスクの高い医療関係者が布マスクを着用することを推奨しないとしているだけであり、単に一般人が感染予防をするだけならば布マスクでも十分としているようなのです。
にもかかわらず朝日新聞は、この記事が投稿された後も以下の記事のように
(社説)コロナ医療体制 人・物の確保を早急に 朝日新聞 2020年4月4日https://www.asahi.com/articles/DA3S14429283.html
新型コロナウイルス対策として、厚生労働省が新たな指針を公表した。軽症者や無症状の感染者について、医師の判断に基づき、自治体が用意した宿泊施設や自宅で療養させる際の注意点などをまとめたものだ。 入院させずに健康観察をする方針自体は、すでに1カ月前に示されていた。しかし実際に運用するとなると課題が多く、なかなか進展しなかった。 東京などの大都市部で収容可能なベッドが満杯に近づき、ようやく具体的な手順が示された。医療崩壊を招かないよう、切り替えを急がねばならない。 ただ、課題は解消されたわけではない。例えば、宿泊施設には健康管理にあたる保健師や看護師を配置することになる。その要員をどう確保するか。ウイルス検査や感染者の追跡で手いっぱいの保健所の負担を、これ以上増やすわけにはいかない。地域の診療所や医師会などが積極的に支援すべきだ。 施設の従業員らが食事などの生活支援をすることも想定されている。感染防御に欠かせない知識やノウハウについて、研修の機会を確保するなどの対応が不可欠だ。国や自治体は相応の報酬を払い、万一の場合の補償の枠組みも示したうえで、協力を仰ぐ必要がある。 指針には自宅療養の際の留意点も盛り込まれた。だが、感染者のケアを家族に任せることの限界や危うさを指摘する声が、各方面からあがっている。無理のない話だ。状況や希望に応じて、施設に入れるようにする仕組みを整えてほしい。 何より、今回の指針の目標である重症者用のベッド確保は喫緊の課題だ。深刻な院内感染が頻発していて、一般病院の協力を得るのはさらに難しくなることも予想される。ここでも思い切った財政支援や損害補償を打ち出すことが必要だ。 今回のコロナ禍は、重症者を治療する集中治療室(ICU)や人工呼吸器などの備えが十分でない実態を浮き上がらせた。人口比当たりの日本のICUの数は欧州に比べて少なく、患者が急増した場合、早期の体制崩壊が予想されるという。 政府は人工呼吸器や人工肺装置(ECMO)の増産支援に乗り出したが、供給が軌道に乗る時期は見通せない。機器を扱える専門職の確保・養成も同時に進めなければならない。 安倍首相は、感染を防ぐ効果がほとんど期待できない布製マスクを、全世帯に2枚ずつ配布すると表明した。経費は数百億円という。救える命を救い、被害を最小限に抑えるために、いま、どこに、ヒトとモノを投入すべきか。優先順位を間違えずに施策を進めねばならない。
「安倍首相は、感染を防ぐ効果がほとんど期待できない布製マスクを、全世帯に2枚ずつ配布すると表明した。」とフェイクニュースを報じていたため、「皮肉られた」というわけです。
にもかかわらず、
毎日新聞 などが「首相が朝日新聞の布マスクの値段を皮肉った」かのように論点をすり替え、それに「反論してみせる」という典型的なストローマンを行っているというわけです。
今回の件は、情報を時系列で追っていれば問題点がわかりやすいですが、なかなかそれが難しいため、それを大手メディアなどが悪用して印象操作や論点のすり替えをした、非常に分かりやすい事例です。
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